視聴者目線に立った動画が、心をつかみ行動を促す――「動画広告TOPランナーによるパネルディスカッション」

2017年5月10日。
動画広告に関する知見や事例を共有する場として、Web広告研究会の主催により「赤裸々にお伝え。動画活用虎の巻実践篇セミナー」が開催された。

本イベントは2部構成。第1部は、動画広告の基本項目をまとめた「動画広告虎の巻」の実践結果報告を実施。今回ご紹介する第2部では、動画広告のTOPランナーである3名が登壇。動画広告の効果や今後の可能性について発表した。

モデレーターは小林 祐樹氏(コーセー)、パネリストは鈴木 健氏(ニューバランス ジャパン)、柳澤 正規氏(リクルートキャリア)。動画広告の領域において先陣を切ってきた3社の見解は、これから動画広告に取り組みたいと考えている企業にとって必見だ。

【コーセーの事例】純広告の憧れベースの動画と切り口を変えた動画のそれぞれの必要性

小林 祐樹氏(コーセー)

小林:初めに、各登壇者から動画広告を使った事例について紹介していきます。まずは、弊社の事例から。弊社が直近で取り組んだWeb動画広告は、大きく分けて「純広告」「分散型How to動画」「TVドラマインフォマーシャル」の3つです。

Webに流す純広告の場合、弊社は商品認知のリーチと商品の理解促進を目的にしています。そのため、KPIは「再生率」がメインです。ただ、それはある程度ブランドが認知されている商品の場合ですね。弊社は紹介する商品によってKPIを変えています。

たとえば新商品の場合、ブランドの認知が最重要です。その際は再生率ではなく「再生回数」を最優先KPIにすることで、どれだけ広まっているのかを見ています。3〜4秒でもいいので、視聴者に動画を観てもらい、商品名を少しでも覚えてもらうことが重要ですから。


▲実際に配信されたCM

次に、2つ目の「分散型How to動画」について。こちらは配信の量ではなく、継続性をKPIとしています。なぜなら、分散型How to動画は誰かの役に立ってこそ意味のあるコンテンツだからです。1日に1〜2人でもいいので、継続的に困っている人が視聴していることが重要となります。

最後に、3つ目の「TVドラマインフォマーシャル」動画。こちらは、ブランドの世界観とは関係なく、ドラマオリジナルの世界観を訴求しています。まず事例としてこちらの動画をご覧ください。


▲実際に配信されたTVインフォマーシャル

こちらは、最初にご紹介した「純広告」のものよりも、編集にコストをかけていません。制作費は10分の1程度で作れているんです。しかし、それでもインフォマーシャルの方が視聴者の心に刺さるケースもあります。

これまで化粧品業界では、ブランドの世界観を伝えたり視聴者に憧れを与えるような動画を重視してきました。そのため、はじめに紹介した純広告のように、制作費のかかるものが主流です。

しかし、純広告とインフォマーシャルの制作費を比べたとき、費用対効果としてはどちらが有効なのでしょうか。純広告では振り向いてくれなかったターゲットには違う切り口が必要だと思うんです。それを、いま私は配信費も含め自社のプロジェクトにおいて検証し続けています。

【ニューバランスの事例】幅広い認知よりも、視聴者を引きこむ引き込むことを重視した

鈴木 健氏(ニューバランス ジャパン)

鈴木:私の方からは、昨年のリオオリンピックの期間に発売開始した新商品のランニングシューズ『VAZEE』の事例を紹介します。

実は、ランニングシューズの場合、デジタルの動画広告でテレビと同じCM素材を積極的に使って商品名やイメージの認知を広げても思ったほどの効果が得られないと感じていました。履いてみた感覚や走った感覚を理解していただかなければ、ランニングシューズの魅力はユーザーに伝わらないからです。そこで、今までとは違う切り口で2つのWebの動画広告の施策を実施しました。

1つ目は動画を使ったTwitter上でのプレゼントキャンペーン『駆け抜けるVAZEE(バジー)ランナーをスクリーンショットでつかまえよう!毎日当たる!Twitter 画像投稿キャンペーン』です。

この内容は、Web上で『VAZEE』を履いたランナーが走る動画を再生していただき、その際にランナーを上手くスクリーンショットできれば、Twitterで画像投稿して応募できるというもので、毎日当選者を発表していました。

全身が写っていることが応募条件だったので、その速さに苦戦する人も多かったようです。このキャンペーンは、「毎日ランニングシューズが当たる」という話題性と、「簡単に見えて実は難しい」という意外性が、視聴者を引き込む要素になったのかなと考えています。

ただ、この施策だけではランニングシューズの性能が伝わりにくいと考え、8月にはもう1つ紹介動画を作りました。ランニングシューズのもう1つの特徴である“反発性”を生かし、陸上競技の「走り高飛び」と「走り幅跳び」をモチーフにした動画となっています。まずは一度ご覧になってください。


▲陸上競技の走り高飛びをイメージしたユーモアある動画

これらの動画広告は、どちらもCVはあまり意識していません。というのも、ランニングシューズはオフラインでの購買が多いので、動画からのダイレクトなCVが測定しづらいからです。

その代わりとして、このプロジェクトではコンテクスト(視聴者が置かれている状況)の世界観を統一することを目標としました。たとえば、Twitterキャンペーンを告知するメディアとして「ロケットニュース24」や「grape」にお願いしています。

これまで使ってこなかったネタ系ジャンルのメディアでしたが、今回のキャンペーンのコンテクストを踏まえて、面白さを打ち出そうという試みです。

その結果、メディアから非常に高いエンゲージメントを獲得できましたし、7〜8月のキャンペーン中の店舗での売り上げも伸びました。『VAZEE』の動画広告は、コンテクストを考えて戦略を練ることの有効性を感じる機会になりましたね。

【リクルートキャリアの事例】統一感のある動画広告が、視聴者のアクションを喚起する

柳澤 正規氏(リクルートキャリア)

柳澤:私の方からは、弊社で行なっている転職サイト「リクナビNEXT」の事例を紹介します。今回の事例では、タレントの大泉洋さんを起用した動画広告を配信しました。こちらをご覧ください。


▲大泉洋さんを起用したCMの動画

この30秒の動画は、サービスの認知を目的として制作されています。この動画はTV CMでも使われ、多くの人に見ていただけました。さらに、視聴者の“アクション”を喚起できるような動画として、5秒のショートムービーも追加で制作しています。

以前、「静止画バナー広告」のクリエイティブと「動画」のクリエイティブと統一したところ、両者の反応が良かったという過去の事例がありました。それと同じようなシナジーが「30秒動画」と「ショートムービー」でも起こることを期待したのも、制作に踏み切った理由の1つです。

結果としては、アクションが期待したほど伸びたわけではありません。しかし、当初立てた仮説を裏付ける結果も得られました。CMによる態度変容は「サービスの認知」という部分で効果的だったのですが、ショートムービーでは仮説通り「利用意向」といったアクションに近い要素の数値が上昇していたのです。

つまりショートムービーは、CMでリーチを伸ばした後にアクションを促す「もう一段階上の施策」として機能するのではないか、と考えています。

動画広告は視聴者を引き込み、説得する

小林:ここからは、ニューバランス ジャパンの鈴木さんとリクルートキャリアの柳澤さんに、動画広告について質問をしていきます。そもそも、なぜWeb動画広告を実施したのでしょうか?

鈴木:ニューバランスの商品は、一般消費財のなかでも嗜好品というジャンルに近いです。そのため、多くの人へ認知を広げることよりも、ニューバランスに興味がある人を更に引き込んでいくための施策が重要になります。その点において、エンゲージメントを獲得しやすいWeb動画広告が有効だと考えて実施しました。

また、データを残せるという点もWeb動画広告は優れています。CMは確かに多くのリーチは獲得できるものの、データの蓄積が難しい。一方、Web動画広告はデータを蓄積できるので、分析や振り返りができ、次の施策が打ちやすいというメリットがあります。

他にも、少額から始められたり、複数の動画広告パターンを試せたりという点も、その魅力だと思いますね。

柳澤:私の方からは、静止画バナー広告と動画広告を比較してお話します。そもそもリクナビNEXTのようなネットサービスは無形のものなので、機能的な差別化が難しい領域です。製品に対する模倣も容易なので、似たようなものを競合に作られてしまう場合もあります。

その前提を踏まえた上で動画広告のメリットを考えると、静止画バナー広告よりも「ストーリー性を持たせられる」という点が挙げられるでしょう。

つまり、一時的な情報を発信するだけに留まらず、視聴者をストーリーに引き込んで説得させられるのです。そのストーリー性を工夫することで他社と差別化できると考えたため、動画広告を実施しました。

小林:ありがとうございます。最後になりますが、動画広告の持つ可能性や注意すべき点などについて伺えれば。

鈴木:Web動画広告の課題は、新規顧客の獲得にあります。Web動画広告を見る人は、検索などで自発的にアクションを起こして視聴するケースが多く、もともと興味がある方にしか広告が届かないという欠点があります。一方で、TV CMは多くの人にリーチできるという点では優れています。

ただし、TV CMは視聴者が次のアクションを起こしづらいという課題もあります。Web動画広告の場合は、広告を視聴した後にすぐネットショッピングなどの購買行動につながりますから、この点においては優れている。

これからは、Web動画広告とTV CMそれぞれの利点を結びつけるようなパターンが増えていくと思うんです。その事例として、この動画をご覧ください。


▲アメリカで配信されたバーガーキング®の15秒CM。「このCMは15秒しかないので、ここにあるWhopperバーガーの魅力は伝えきれない。Whopperバーガーとはなんだいgoogle?」という内容で、視聴者にアクションを促している。

この動画のように、TV CMで獲得した新規顧客にWebでのアクションを促すというのは、とてもユニークな事例。かつ、非常に効果の高い方法だと思います。

柳澤:私は、動画広告において「視聴者の置かれている場面を想像すること」が大切になってくると考えています。たとえば、先ほどのリクナビNEXTの動画だと、途中で大泉洋さんが歌うシーンがある。しかし、視聴者が電車に乗っている際には、音を流して動画を見ることはできません。場合によっては、動画の主軸に歌を使うことのハードルが高いケースもあるわけです。

そのため、動画広告を通して伝えたいメッセージは変わらなくても、視聴されている時間や場所に合わせて最適な動画を考えていかなければいけません。今後は、良い動画を作って配信するだけでなく、視聴者がWeb動画を観る環境まで含めてプランニングすることが必要になってくると思います。

小林:おっしゃる通りです。どうしても動画を作ることにばかり集中して、ユーザー目線が抜け落ちてしまうことがあります。それはどこの企業も抱える課題かもしれませんね。それでは、本日はありがとうございました。

イベントを振り返って

業界を牽引するマーケティング担当者のナマの意見が聞ける貴重なトークセッション。テレビCMとWEB動画の使い分けや、動画視聴環境を想定したクリエイティブ制作など、動画広告に本気で取り組むなら避けては通れない道です。

すぐに「大正解」を見い出すのは難しく、試行錯誤中のフェーズではありますが、成功談(失敗談も含めて)事例に多く触れられた良い機会になったのではないでしょうか。個人的にも大変勉強になりました。

株式会社サイバーエージェントオンラインビデオ総研 所長 酒井英典